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最高裁判所大法廷 昭和31年(あ)914号 判決 1961年12月20日

主文

本件上告論旨は理由がない。

理由

論旨は、貸金業等の取締に関する法律五条にいう「貸金業」とは、その行為が客観的に観察して貸金業としての形態を備えたものであることを要すると解すべきであり、もしそうでないとするならば、同法律五条、一八条一号は、本来自由なるべき金銭の貸付行為を理由なくして不当に制限するものであるから、国民の財産権の行使と職業選択の自由を理由なくして不当に制限するものであって、憲法二二条、二九条一項に違反し違憲無効であり、原判決は、前記法律五条の解釈を誤った違法があると共に憲法の右条項に違反すると主張する。

しかし、本件において原審が証拠により適法に認定した事実によれば、被告人は、利殖の目的をもって原判示第二の(一)の日時場所において、貸主として成田隆美名義を使用し、村松幸吉に対し月七分ないし八分の利率をもって金三〇万円を貸し付けたほか、同様の方法で三回にわたり、同判示第二の(二)ないし(四)の金員を同記載の利率をもって貸し付けたというのであり、客観的に観察して被告人が反覆継続の意思をもって貸金業等の取締に関する法律二条にいう貸金の行為を業として行ったものというべく、それ以上に所論のような特別の形態を備えるまでの要はないものと解すべきである。そして、このように解釈しても右法律五条、一八条一号が憲法の所論各条項に違反するものとはいえない。蓋し、右法律が、同法律にいう貸金業を行おうとする者に対し大蔵大臣に所定の届出書を提出しなければならないことを命じ、該届出受理書の交付を受けた者でなければ、右貸金業を行うことを禁止した所以は、この貸金業を自由に放任するときは悪質暴利等の不正な金融をなす者が続出し、その一般大衆に及ぼす弊害の極めて大きいことに鑑み、右届出をさせることによって、その者の所在及び業務の実態を明確に把握し、かつ、その業務に対し同法律所定の監督権を行使し、よってその業務の公正な運営を期すると共に、他面、金利等の不当に高率不正のものに対しては、これが届出受理書の交付を拒否し、もってかかる不正の金融から一般大衆を守りその福祉を保護しようとするためであるから、いやしくも業として同法律二条所定の行為を行おうとする以上、その行為を行うについて、前記のような規制をしても公共の福祉を維持するため必要であり、かつ、合理性のある措置として是認されなければならないからである。それ故、原判決には所論違憲違法はなく、論旨は採るを得ない。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐)

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